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ストレートなショパン、そのセルフ・パロディの実態 [Gould]

Gould 「別にショパンは嫌いではないですよ。彼の音楽を、わずかですが楽しんできました。他の人の演奏でね。実は、曲の収録の5週間前まで楽譜を持っていませんでした。僕は勇気を奮い起こして、一番濃いサングラスをかけて、お店のカウンターに歩み寄り、在庫はありますか?とたずねたんです。」

GouldによるショパンのCDはこの演奏が一つだけ。
ソナタ第3番。
彼によると、この演奏は一種の実験だったそうです。

「ショパンはこの曲で、古典派ソナタ形式を歪めて用いた。さらに饒舌な手法でセルフ・パロディを導いた。ショパンの音楽を解釈する時の課題は、この生来のパロディ的要素を出来るだけ迂回すること。このパロディ性を発揮した彼の根本的意図を推測し、この意図によって生まれた形式上の問題点に、輝かしい創意をもって取り組むことが大事です。そのためには、彼の音楽の持つあの神秘的な雰囲気を取り去らなければなりません。ショパンはかけ離れた別世界のもの、独自の存在のものとして扱うべきではないと思います。」

そして、録音されたのがこの演奏です。

楽譜にきっちり忠実。
曲の構造を強調、強化。
ルパートがない。
リタルダンドもアッチェルランドもない。
輝かしくない。
 ・
 ・
 ・
 ・
ステキじゃない

ショパンの音楽は、その神秘性のヴェールをはずしてしまったらなんの魅力もないんだよ、と言いたかったのでしょうか?



それでも、やっぱり私はこの演奏もすきなの。
それは単に、彼の出すピアノの音色とそのタッチが好きなだけかもしれないけれど。


      



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みーママ

グールドは、ショパンがどれほど多くの影響をベートーヴェンから受けているかをこの演奏で表現したかったのかなと私は感じました。
メンデルスゾーンの演奏なんかはびっくりするくらいオーソドックスだけど、このショパンはグールドの主張が強く出てますよね。
ショパンは幻想即興曲もベートーヴェンの色がすごく濃いと感じます。
だから私には痛快な演奏でした。
by みーママ (2010-02-09 23:34) 

奈々

glennmieさん
初めまして、素敵な演奏ですね。
私は難しいことは分かりませんがグールドの演奏が好きです。まれにインヴェンションにしても平均律にしてもものすごく遅い速さで弾いていて最初違和感を感じる曲もあります。
それでも聞いていくうちにピアノを弾くとことは自然な歌にどれだけ近付けるかということだとよくピアノの先生に言われることをグールドがしていると気がつきます。
これも見事に歌にしているなと思いました。
よく楽譜に忠実にゆっくり弾きなさいとレッスンの時に先生に言われます。
こんな風に弾いたらあなた天才ねと言われると思います。
もちろんグールドは天才です。
飾りを取ってもショパンらしさはあるんだと思いました。

by 奈々 (2010-02-10 00:55) 

glennmie

みーママさん、コメントありがとうございます。
私はショパンのことはよくわからないんですが、そうなんですか。

ショパンは、バッハとベートーヴェンをとても尊敬していたそうですね。
アラン・ウォーカーの本で、「ベートーヴェン~ショパン」という系譜についての論文を読んだことがありますがその時も、ふーん、そうなんだ・・・と思っただけで深く考えていませんでした。

グールドの意図はそこにあったんですか・・・
教えていただいて、ありがとうございました。
by glennmie (2010-02-10 01:56) 

glennmie

奈々さん、ご訪問とコメント、どうもありがとうございます。

グールドの演奏を聴いていると、普段何気なく聴いている曲が思いもよらない様相に変化していて驚かされることばかりです。
楽譜の向こう側を読み解き、ひとつひとつの音の意味を吟味して再構築していくんですね。
凄い人だな・・・と、つくづく思います。

彼の演奏は、音楽の素晴らしさを教えてくれる私の「ピアノの先生」です。


飾りを取ったグールドのショパン、私もとても好きです。
もっともっと録音を残して欲しかったな、と思います。

by glennmie (2010-02-10 02:19) 

glennmie

はっこうさん、nice!ありがとうございます。
by glennmie (2010-02-10 02:20) 

glennmie

xml_xslさん、nice!ありがとうございます。
by glennmie (2010-02-10 02:21) 

まり

おもしろい!実におもしろい!
他の人の演奏と聴き比べてみた。
素人の的外れな感想だけど、
他の人は当たり前かもしれないけど、ショパンはこう
弾くべき。って感じでショパンをすごく意識して弾いてるように聴こえる。
グールドは、あまり意識せず1音1音かみしめて弾いてるみたい。
僕だったらこう弾くよ。僕らしくね。って感じ。

もっとグールド節炸裂かと思った。
ペダル使ってるし・・・

さて、ここでいつものように素朴な疑問。
ショパンコンクールに出たらどうなっているのかなぁ・・・
by まり (2010-02-10 13:17) 

glennmie

まりさん、コメントありがとうございます。

>もっとグールド節炸裂かと思った。
そう、そこなんです! さすが、まりさん!
ブラームスの時みたいに内声を出したり、もっと彼らしく面白く弾くこともできたはずなのに、そうしていないの。
録音用のマイクも硬い音が出るものを敢えて選んで、キラキラした輝かしい音やロマンティックな響きを徹底的に排除しているんですよ。
面白い実験ですよね。

ショパンコンクール?テープ審査と仮定して?
どうなってたでしょうね。
お国の宝のショパンを裸にしちゃったんだから、逮捕されるかも。
でもこれが入賞したら、ある意味ヤン・エキエルさんを見直しちゃったかもね~。

by glennmie (2010-02-10 14:50) 

glennmie

ほりけんさん、nice!ありがとうございます。
by glennmie (2010-02-10 14:50) 

arata

glennmie 様
僕は、普段、オーケストラで仕事をしているので、Gouldの演奏を聴いて、このChopin の<ソナタ>が、管弦楽曲のように聴こえました。また、彼の演奏は、M.Callasの歌唱と共通すると、感じました。Callas は、オペラの或る役を手掛ける時、<それが書かれている通りに、決してそれ以上にでもなく、それ以下にでもなく、勉強するのです。それが私の言う「直に肌に付ける」事なのです>と述べています。<高度な本能的直感的芸術家は、創始的芸術家でもある>と言うCallasに向けられた言葉は、Gouldにも当て嵌まると思います。
arata
by arata (2010-02-10 21:47) 

glennmie

arata様、どうもありがとうございます。

Gouldがarataさんの言葉を聞いたら、きっととても喜んだでしょうね。
Gouldが求めていたものは、ピアニスティックではないもの。ピアノの中だけで完結してしまう音楽を、彼は嫌っていたように思います。
常に、ピアノの存在を超えた音楽を奏でようとしていたピアニストだったと思います。
自分はピアニストではない、と彼が言う時、彼の中にはもっと大きな意味での芸術家としての自負があったんでしょうね。


マリア・カラスの言葉は深いですね。優秀な芸術家は本能的な部分で共通のものを持っているんですね。
by glennmie (2010-02-10 22:44) 

glennmie

めぇさん、nice!ありがとうございます。
by glennmie (2010-02-10 22:44) 

Mineosaurus

ノイエ・ザッハリヒカイト
美しい演奏というのはあり得ない。美しい作品があるだけだ。
ラサール弦楽四重奏団風ショパン。(^m^ )

創造芸術であり得るのは最初に作曲家の指先からでたもの以外にはありえない。
様々な再現芸術がそこから組み立てられる。そこから新たな形を組み上げてゆくことを別の言い方をすればパロディといいます。
似て非なるもの。
グールドのショパンを聴いていてその背後に立ち上がってくるのはショパンではなく、弾いているグールドの姿そのものでした。
でも、進化し続けるフォルテピアノが持つオクターブの広さそのものが巧まずして産み出すドラマティックな音楽の高揚をさすがのグールドも抑えかねている部分がありますね。
by Mineosaurus (2010-02-10 23:07) 

glennmie

Mineosaurusさん、どうもありがとうございます。


ノイエ・ザッハリヒカイト・・・・う~~ん、いや、せいぜいアポロン派。

模倣、パロディ、破壊といった言葉がグールドの演奏にはついて回りますが、彼は、演奏の目的を絶えず分析する音楽の探求者だったんだと思います。
その分析、挑戦の結果がどうであれ、私は、最終的にはその演奏の素晴らしさに参っちゃうんですよね。

「グールドの美学は冷ややかだが、演奏は違う」

私にとって最後に残るのは、彼の「演奏」です。

by glennmie (2010-02-11 00:54) 

glennmie

ユーフォさん、nice!ありがとうございます。
by glennmie (2010-02-11 02:44) 

glennmie

shinさん、nice!ありがとうございます。
by glennmie (2010-02-11 08:46) 

glennmie

sungenさん、nice!ありがとうございます。
by glennmie (2010-02-11 12:42) 

yoppy

glennmieさんの記事も、みなさんのコメントも、とても面白く拝見しています。

「グールドの美学は冷ややかだが、演奏は違う」

Mineosaurusさんの感じられた、グールドであっても押さえかねたショパンのドラマティック。

いろんな既成の価値観や、この作曲家はかくあるべきというような概念、すべてをそぎ落として、なお最後に残るもの。
それがこの2つの言葉に表現されてると思います。

もちろん、楽曲への理解を深めるために、既成の価値観を学ぶことは大切ですが、そのことに縛られず、純粋に楽譜から読み取れることのみを深く深くつきつめていくことは、案外、作曲家自身が喜んでいることではないかと。
いつまでも、様式や時代背景のなかにある音楽を再現するのでなく、せっかく生まれた曲を新しい感覚で再構築することは、現代の音楽を新しい方向に導いていく、何か一つの光明のような気がします。

by yoppy (2010-02-11 14:59) 

glennmie

yoppyさん、コメントありがとうございます。

まったく同感です。
同じものを繰り返し、繰り返し演奏するのがクラシック音楽の演奏家であり、繰り返し聴きたいのがクラシックの聴衆であるという考え方は、ナンセンスだと思いますね。
新しい視点で曲を解釈した時に、作曲者自身の考え以上の何かが発見されるかもしれない。
カザルスの言うように、曲も人と共に成長するのだと信じています。

「音楽」は人知を超えたところからやってくるもの、どんなに変貌しようともそのパワーは不滅なのだと思います。

by glennmie (2010-02-11 17:03) 

マコ1号

はじめまして!

私はあまりたくさんの人の演奏を聴いたわけではないのですが、こんなショパンのソナタは初めて聞いたかもしれません。
私も、やっぱりショパンはベートーヴェンの影響を受けていたんだろうなと感じました。
それにしてもこの演奏は見事だとおもいます!
いつか私もこの曲が弾けるようになりたいので、勉強になりました。

by マコ1号 (2010-02-11 20:05) 

glennmie

マコ1号さん、ご訪問、コメントどうもありがとうございます。

色彩を排除したモノクロのショパンという感じでしょうか。
彼のショパンがこれ1曲だけなのは、本当に残念なことだと思います。
もっといろいろ聴いてみたかった。

素晴らしい演奏、素晴らしいピアニストでしたね・・・

またコメントいただけると嬉しいです。どうもありがとうございました。


by glennmie (2010-02-12 00:26) 

glennmie

マロンさん、nice!ありがとうございます。
by glennmie (2010-02-12 11:16) 

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