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ベートーヴェンとピアノ [音楽雑感]



「20世紀も半ばになっているのに、ピアノは旧態依然だね。時代遅れだよ。
小型エンジンが付いてて自分で移動するピアノとかさ、新しいアイデアとしてどうかな。」と言っているのは、1959年、27歳の時のGouldです。



それから50年後、2009年にピアノの歴史は300年目を迎えたそうです。
その間に様々に形を変え、改良され、大型化されて来ましたが、もう進化は止まったのですね。
今では良質の自然の材料の不足から合成樹脂や金属の部品の割合が増えてきて、さらに電子ピアノも登場し、でもそれはさらなる進化とはよべない。
利便性が向上しただけのことだから。

クラシック音楽の衰退と同時に楽器の進化も終わりを遂げたということなのでしょうか。






先日、「ベートーヴェンとピアノ」というタイトルのお勉強会に参加した友人から、講座の内容の資料を分けてもらいました。
なんとなく知ってる・・・と思っていたのですが、改めて正確な資料で確認してみると、やはり何も知っていたわけではなく(ま、いつものことですが・・・)、とても興味深く年表とにらめっこをしています。




モーツァルトの時代は、ちょうどハープシコードからピアノへの移行期にあたります。

Der_junge_Mozart_am_Klavier[1]1.jpg



一方、ベートーヴェンの時代は、新しいピアノが次々と生まれてくる実にエキサイティングなピアノの黎明期。
音域、ペダル、アクション、音色などが次々に試作され、改良され、生まれ変わる「ピアノ進化」の時代です。
ベートーヴェンの32曲のソナタは、次々と進化するピアノの発展と密接に結びついています。
逆に言うと、この進化の時代と幸運にも時を同じくしたことが、彼のソナタ集をこれほどまでに素晴らしいものにさせたのだ、とも言えると思います。




ベートーヴェンが使用したピアノを大まかに見てみると、

ソナタ No.1~ おそらく、ヴァルター製    5オクターブ  木製フレーム 膝ペダル式
f0232873_12282393.jpg


     No.21~エラール 1803年製造(ロンドン) 5オクターブと4度 鉄板補強 足ペダル2
erard.jpg

No.24~シュトライヒャー1823年製(ウィーン) 6オクターブ  鉄板補強  足ペダル4

No.29~ブロードウッド1827年製(ロンドン)  6オクターブ  鉄板補強  足ペダル2
グラーフ1825年製(ウィーン) 6オクターブと4度 総木製 4本弦 足ペダル

img052.jpg




ここら辺の史実は、彼の伝記や様々な著作で既によく語られていることです。





私がとても興味深く思ったのは、
「ベートーヴェンがソナタを書き始めたその時から既に、彼の構想は当時の楽器の限界を超えていた」、ということです。
特に当時の楽器の音域は、彼のイメージする音楽を表現するにはあまりにも狭かった。
彼は仕方なく他の音を代用して、苦労しながら不都合を回避する手段を模索するのですが、結果として逆にとても効果的なフレーズができあがったりするのです。(テンペストなどに思い当たります)
実に面白い!

音域の問題は次のピアノの出現で、解決していくのですが、今度はアクション、ペダル、音質と次々に彼の不満は増大していきます。
しかし同時にその不都合をまた、いろいろな解決法で切り抜けていくベートーヴェンの発想の豊かさに驚かされます。

例えば・・・
当時のエラール・ピアノは低音と高音の音のバランスがとても悪かったそうです。
低音部はモコモコ、高音部は響きにくい。
あの「ワルトシタイン」はそんなアンバランスなピアノの特徴を逆に利用して書かれています。
低音部の和音の連打の後に演奏される高音部のフレーズ(10小節あたり)は、当時のピアノで弾くと、遠くからだんだん近づいてくるように聴こえたんだそうです。

面白いですね~。

彼は、シュトライヒャーのピアノを気に入っていて、音色の面では最も良いと言っていました。
なのに、良すぎて使えない、と言って使おうとはしませんでした。
不屈の苦労人のベートーヴェンは、恵まれたピアノではなく、発展途上の不都合の塊の上でこそ、その本領を発揮した、ともとれますね。






学生時代はよく弾いていたベートーヴェン。
最近あまり弾いてないな・・・
この資料の年表を横において、また少し勉強してみようかな、と思います。














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ユーフォ

私も未熟さを、バネにせねば(^^♪
by ユーフォ (2010-12-04 03:58) 

glennmie

ユーフォさん、どうもありがとうございます。

そうか。。。
じゃあ、私も。
頭悪いのは何かのバネになるかしら。
by glennmie (2010-12-04 14:33) 

glennmie

xml_xslさん、nice!ありがとうございます。
by glennmie (2010-12-04 14:34) 

glennmie

takemoviesさん、nice!ありがとうございます。
by glennmie (2010-12-04 14:35) 

glennmie

Mineosaurusさん、nice!ありがとうございます。
by glennmie (2010-12-04 14:35) 

glennmie

cfpさん、nice!ありがとうございます。
by glennmie (2010-12-04 14:36) 

アヨアン・イゴカー

何でもそうだと思いますが、それなりの完成形になった後は進化しないのではないでしょうか。バイオリンなども、現在があものがバイオリンの音で、あれが別の音に変化したり機能が拡張されてしまったらバイオリンではなくなってしまします。それがそのものの持つ、独特の魅力なのだと思います。
バグパイプにはバグパイプの音の魅力があるように。
楽器と作曲との関係、興味深く拝読しました。演劇に於ける舞台と台本との関係にも似ていると思いました。シェークスピアの台詞は、グローブ座の作りを前提に書かれていると言う研究もあるようです。
by アヨアン・イゴカー (2010-12-04 20:38) 

glennmie

アヨアン・イゴカー さん、どうもありがとうございます。

う~ん・・・そうなんでしょうね。

当時のベートーヴェンのように、いまある楽器の在り方を超える発想の余地がすでになくなった、という風にもとれますね。
調性音楽の中ではもう、全ての事がやり尽くされてしまった・・・で、20世紀になって調性を破壊する現代音楽が登場して、ジョン・ケージのプリペアド・ピアノとか出てきましたけど、結局、耳に心地よい音楽とは程遠くて定着しなかったということなのでしょうね。
クラシック音楽がクラッシックと呼ばれるようになった時点で、楽器の発展も止まったんですね。つまり、完成してしまったということなんですね。

じゃあ、シンセサイザーとか、電子楽器は?
やはり利便性が上がっただけのような気がするんですが、これから新しい方向性が見つかる可能性は十分にありますよね。
by glennmie (2010-12-04 21:45) 

glennmie

eternityさん、nice!ありがとうございます。
by glennmie (2010-12-04 21:46) 

macha

拡声装置がない時代、ピアノは音が大きいうえに、強弱もつけられる画期的な楽器だったのでしょうね。鍵盤楽器は音を出すメカニズムを変えれば、今でもいろいろと発展の可能性があるんじゃないですかね。チェンバロみたいに弦を弾いて音を出して、しかも強弱もつけられる、つまり、ギターを鍵盤楽器にしたような楽器って作れないかな、と思います。音が小さければエレキギターみたいにマイクで拾うとかね。

ちなみに、今仕事でドイツに来てるんですが、雪が積もっていて、寒くてびっくりです。
by macha (2010-12-05 13:02) 

glennmie

machaさん、

ローランドから、電子チェンバロというのが出てますよ。
私、結構気に入ってるんです。
発音のメカニズムを変えるというと、どうしても電子楽器の方向性が浮かんでしまうんですが、大きくて嵩張る楽器はやっぱり、クラッシックな過去のイメージですね。

ヨーロッパはめちゃくちゃ寒いみたいですね。
ロンドンの友人から雪が降ってて寒いというメールをもらいました。
どんなに寒くても、この時期のヨーロッパが好きです。
いいな~、machaさん。
by glennmie (2010-12-05 17:33) 

glennmie

PENGUINGさん、nice!ありがとうございます。
by glennmie (2010-12-05 23:27) 

tamanossimo

あぁ~出遅れてしまった~~
甘ったれてちゃだめってことかな!?
障害があるほうが恋も萌えるもんね!? あれっ!?
by tamanossimo (2010-12-06 23:30) 

glennmie

tamanossimoさん、どうもありがとうございます。

私は楽な方が好きですけど~
いろんな困難にチャレンジするのって、パワーがいりますよね。
自分は、パワフルな人生とは程遠いところにいるような気がします。
だからダメなんですかね。。。
by glennmie (2010-12-07 00:32) 

glennmie

ぼんぼちぼちぼちさん、nice!ありがとうございます。
by glennmie (2010-12-07 01:08) 

macha

しかし、飛行機も電車もダイヤがめちゃくちゃで、大変な目に会いましたよ。
仕事で来たんで、音楽に関しては全く無計画だったんですが、
週末にベルリンに行ったときにマリエン教会にふらっと入ったら、
偶然、BWV 525 Allegroのパイプオルガンの演奏を聴くことができましたよ。
練習で弾いてたみたいですけどね。ちょっとラッキーでした。笑
by macha (2010-12-07 14:29) 

glennmie

machaさん、

そうなんですか。
ブクステフーデがオルガニストをしていた教会ですよね。
素敵ですね~!
いいですね~!!

by glennmie (2010-12-07 16:28) 

glennmie

Chronusさん、nice!ありがとうございます。
by glennmie (2010-12-07 16:28) 

macha

ブクステフーデがいたのはベルリンじゃなくてリューベックの方みたいです。
ベルリンのマリエン教会は森鴎外の舞姫の舞台になったところだとか。
いや、話を脱線させてすみません。。。

by macha (2010-12-07 17:02) 

glennmie

machaさん、どうもありがとうございます。

そうなんですか。
ひとつ、お勉強しました。ありがとうございます。

とてもきれいな教会ですね。
ドイツは素敵ですね~。


by glennmie (2010-12-07 18:12) 

glennmie

(。・_・。)2kさん、nice!ありがとうございます。
by glennmie (2010-12-08 08:48) 

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