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Gouldのソヴィエト音楽論 [Gould]

今、ショスタコーヴィッチのことをいろいろ学ぼうとしているのですが、知れば知るほどよくわかんない。


音楽作品は純粋に「音楽」として捉えたい。
作曲家の私生活とかその当時の社会体制とかそんな諸事情ははずして、純粋に一つの音楽として音の連なりを分析し、理解したいと思っているのですが、
ショスタコーヴィッチに常に付きまとう「ソヴィエト」という国家の存在が、どうしてもこの作曲家の作品を複雑なものにしてしまっているようです。

反社会的な作品を書いては、政府から問題視され、そのすぐ後に「ソヴィエト、バンザイ!」な曲を書いて賞賛され、直後にまた「問題作」を提示して問題児扱いされ、さらにその直後にプロパガンダ満載の曲を作り・・・・の繰り返しで、故に作品の評価も当時と今ではばらばらで。

ソヴィエト連邦の存在、スターリン独裁政権、独ソ戦、戦後の米ソ冷戦、そしてその雪どけと、様々なものに巻き込まれた人生は、やはり作品と切り離しては考えられないのかもしれない。

難しい・・・・・結局、私にはよくわからない。








1964年、Gouldが「ソヴィエト連邦の音楽」という講演をトロント大学でやっています。
彼はデビュー間もない頃、西側からの親善大使という名目で、鉄のカーテンの向こう側、旧ソヴィエトを訪れています。
当時Bachと現代音楽が一切禁止のソヴィエトの中で、彼はBachと現代音楽だけのリサイタルを行なったんです。( ̄▽ ̄)V
そして現地を訪問中、あちらの音楽事情をとてもよく見てきたみたいです。
この講演では、彼自身のソヴィエト音楽論をとても詳しく説明してくれています。

やっぱりこの人に頼るしかない。


funny_dog.gif


というわけで、Gouldの「ソヴィエト連邦の音楽」を読んでみました。
私がかろうじて理解できたことは以下の通りです。
(Gouldの表現は時々とても面白い。念のため、文章中で笑っているのは、私です。)




♪゚+.o.+゚♪゚+.o.+゚♪゚+.o.+゚♪゚+.o.+゚♪゚+.o.+゚♪♪゚+.o.+゚♪゚+.o.+゚♪゚+.o.+゚♪゚+.o.+゚♪゚+.o.+゚♪



ソヴィエト政府と芸術社会の間には不思議な関係があるようだ。
この両者は、お互いの間で調和と幻滅を、周期的パターンで展開している。
つまり、ソヴィエト経済が高成長率を上げている時はいつも、芸術社会の風変わりな振る舞いに寛容になる傾向があり、
一方、外交、経済のどちらかがうまく回っていない時には、厳しい規制、服従の要請、ナショナリズム最優先の傾向が顕著になる。


ソヴィエト政府と芸術の関係が軋んでいる本当の理由はどこにあるのだろうか。
芸術の目的と政府の目的は同じであり、芸術家も他の労働党員と同様に国家目的に尽力すべきであると、そのような観念を国民にかくもかたくなに固守させているものは何なのだろうか。

Gouldは、その原因は「共産主義」にあるのではない。・・・と見ています。
その原因は、遠くさかのぼったロシア人の歴史の中にあるのだ、と言っています。



19世紀の第二四半世紀に至るまで、ロシアには重要な作曲家による音楽がなかった。
ベートーヴェンも既に去り、ワーグナーやベルリオーズが活躍する時代になってもなお、ロシアは重要な作曲家を一人も生めずにいた。

1700年ころ、ピョートル大帝の趣味娯楽的な関心も、時代に乗り遅れまいとする欲求を超えたものではなく、
ロシア正教は、音楽を、共産主義よりもはるかに強力な権威によって規制していた。
国民の中では、あらゆる世俗音楽は禁止されていた。


ロシアでは、西洋の音楽体験に似たものは何もなかった。
和声の展開も、聖俗の技法のよくある結びつきも、人生がそうであるように、善きものも悪しきものも混合されるというルネサンスの考え方も一切が知られていなかったのだ。


根本はここにある、とGouldは推測しています。


ピョートル大帝が宮廷に西洋芸術を導入し、教会を軽視し始めた頃、芸術はほとんど輸入品だった。
ロシアの作曲家集団が伸び始めた頃、彼らが提供した音楽は、ヨーロッパの最新流行だと吹き込まれた輸入音楽の、香も褪せた模倣だった。
例えば、グリンカ・・・ベートーヴェン中期のアレグロ・アパッショナート風+ファニー・メンデルスゾーン的なサロン風+ロッシーニのイタリア風(笑)

一方、ロシア国民の魂の奥深くに独自の創造力を見出そうとする人たちもいた。
例えば、ムソルグスキー・・・技法的には未完成だったが、独特のぎこちない作風でロシア的想念の、悩み多く悲しみに満ちたありようを捉えている。


そして次の世代が登場する。
この世代は上のふたつの立場を調和させている。
つまり、西洋音楽が到達した技法の枠内で、民族的な衝撃力と、その旋律特有の陰鬱な性格のバランスをとろうと試みた。
例えば、チャイコフスキー・・・この人は、ロシア音楽巡りをする人たちが最も頻繁に訪れる人気ルートだ。(笑)



そして革命後、
基本的には何ら変化はない。
ソヴィエトの作曲家たちはいまなお、自分たちの目指す方向を見定めていないように思われる。
ヨーロッパ音楽の技法や語法に頼るべきなのか、自国文化に固有のものに集中すべきなのか。

しかし、数は少ないが、知的に洗練された作曲家もいる。
例えば、プロコフィエフ・・・Gouldが考える、革命後真に偉大なただ一人の作曲家。

そして、ショスタコーヴィッチ・・・しかし、この人は混乱した変貌を遂げてしまった。
彼の「交響曲、第一番」は澄明で創造力に溢れた自伝的作品であり、驚くべき作品だ。
来るべき世代の大作曲家になるという期待を持たせるに十分な、天才的才能を備えた青年の思春期の記録だった。
しかし、彼はそうはならなかった。
20世紀の音楽の真の悲劇、とGouldは言っています。
ショスタコーヴィッチを、体制が要求してきたすべてを骨抜きにする画一化の犠牲者と捉えるか?
いや、そうではない、とGouldは分析しています。
政府による最初の本格的妨害は、「ムツェンスク郡のマクベス夫人」の非難だった。
この非難がショスタコーヴィッチの将来のコースにどんな結果をもたらしたか、世間はちょっと劇的に考えすぎてやしないか。
(なぜなら、Gouldはこの未削除原譜を手に入れ、分析した結果、非難は正しいと思ったそうです。
これは見紛うことなく取るに足らない作品です、と言っています。)
ショスタコーヴィッチは、党によって方向を指示されるというしつこい迫害よりも、むしろロシア的な罪の意識を過剰に引き受けて苦しんだのだ。







長くなるのでここで打ち止めにしますが、
その後、ミャスコフスキーやストラヴィンスキーなど、様々な作曲家について、とても面白くて鋭い分析を詳しく述べています。
ご興味がある方は、是非読んでみてください。



しかし、ソヴィエト政府はとんでもない若者を招待してしまったものですね^^
Gouldがロシアを訪れたのはこの一回きりでしたが、彼はロシアをとても愛していて、最後まであちらのファンや学生との交流を続けていたそうです。
最後のゴールドベルグのビデオも、モスクワの学生たちに役立てて下さい、と送っていたそうです。



「ロシアの旅」全編がupされていました。
多分、すぐに削除されてしまうでしょうから、今のうちだけ貼っておきます。

















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コメント 6

musselwhite

こんにちは。
先日、モーツアルトのピアノソナタ全集 を探していたら、グールドの全集が有りましたが、お聴きならば感想をお聴かせ下さい。
by musselwhite (2011-11-14 11:18) 

glennmie

musselwhiteさん、コメントありがとうございます。

Gouldのモーツァルトですか。
巷ではキワモノ扱いされているみたいですけど、私は大好きです。
感動はしませんが感激はします^^

本人がインタビューで言っていましたが、バロック風のアプローチでモーツァルトを弾きたかったようです。
ピアノの音色が他の録音とは明らかに違っていて、マイクの選び方ひとつ見ても、こだわりを持って一つの方向性を目指して取り組んでいたのだなぁと思います。
ヘッドフォンで聴いていると、あるフレーズを弾きながら、「ヘイ、へ~イ!」と口ずさんでいるのが聞こえて来て、とにかく本人が心から楽しんで演奏しているのがわかって、引き込まれます。
とっても斬新な曲の解釈もあり、テンポ設定や装飾音の選び方など、こう来るか!と驚いたり感心したり・・・とにかくとても面白い録音だと思います。
by glennmie (2011-11-14 23:28) 

ユーフォ

ショスタコは5番しかわかりません・・・(*_*)
by ユーフォ (2011-11-17 15:51) 

glennmie

ユーフォさん、コメントありがとうございます。

私も、知らない曲がたくさんあって、いろいろ聴いているところです。
なかなか難しい作曲家だと思いますが、自分にはどこまで理解できるのか、まだまだ謎の状態です。

by glennmie (2011-11-18 03:15) 

ユーフォ

その国の時代の背景で、本当に自分の表現したい
音楽が作曲出来なかったとしたら、悲しい事ですね。

好きな曲を聴けたり、表現出来る私達の現在の環境は
恵まれていますよねー。

ショスタコーヴィッチさんが、現代を生きていたら
どんな曲を作曲したのでしょうかね?


ぷぷぷっ。
茶色のわんちゃん、可愛いですね♥
前記事のワンコちゃんと一緒ですか?
ユーフォ相方
by ユーフォ (2011-11-20 11:20) 

glennmie

ユーフォ相方さん、コメントありがとうございます。

私たちの環境は、ほんとに恵まれていると思います。
自分の思うままに音楽を享受できない人も沢山いるんですよね。
感謝しなければ、といつも思っています。

ショスタコーヴィッチがもし。。。って、ちょっと私も考えます。
でもたとえ、アメリカとかに亡命したとしても、ストラヴィンスキーみたいに節操なく変わり身をするような、そんな器用な生き方はしなかったでしょうね。
・・・と、勝手に決めてしまう^^;

茶ワンコ、キュートでしょ?
「偉人にすがる」の図を表現してもらいました。
前回のワンとは違う犬種なんですよ。
でも、同じサイトからお借りしてきました。
by glennmie (2011-11-21 15:19) 

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