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解決しないドミナント・・・トリスタン和声の行き着くところ [音楽雑感]












ワーグナーのオペラ「トリスタンとイゾルデ」
この世の終焉を描いた映画「メランコリア」のオープニングにこの曲が使われていたのは、とても象徴的だなと思いました。
耽美的で神秘的なトリスタン和声。
12個すべての音がエンハーモニックに置き換えられ、導音が導音を呼び、延々と繰り返される行き先の見えない、解決しない和声進行。
すべての音が隙間なくひしめき合い、緊密に絡み合い縛りつけ合って・・・
音楽は行き着くところまで行き着いてしまった。
まさに終焉を見るような退廃的な美。





調性の輪郭が曖昧になり各々の自己主張が盛んになった音達は、その後「調性の呪縛」から開放され、12音音楽の世界へと向かっていく。
これを進化と呼ぶのかどうか・・・



その昔、教会の中でただ神様に捧げるためだけに響いた4度、5度の響きは、時と共に肥大化し複雑になり、
3度→2度→半音とその間隔を縮めて進化してきたのは事実。
けれども、さらにさらに細分化され、最終的には五線譜も飛び越え、電子化され、突き進んできた「前衛」は、人の耳のキャパシティーを超えてしまった・・・のでは?






そして、楽器はその声をなくした。










和声の複雑化、表現の増大、オーケストラの巨大化、そしてお金や権力とも結びついていく音の歴史は、そのまま人類の歴史を見る気がします。
利便性を追求し、物に溢れ、お互いの私利私欲やエゴがひしめき合う今の世の中。
本当に人は進化してきたの?




私は、昔々の音楽が大好き。
シンプルでささやかだけれども未来への可能性を沢山宿した、音楽史の中ではまだ「少年時代」にあたる音楽。
その中に、自分の経験や考えを反映できる余裕と広さを持っている音楽。
古いのではない、若々しい音楽。















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Mineosaurus

ジョン・ケージのピアノのための4分33秒は周りの音が聞えないと何か観念的すぎて間が抜けていますねえ。詩的時間の経過がピアノを取り巻く音の状況で変化するはずなんだけれど、ちょっと失敗じゃないかね、こりゃ。聴衆が演奏者と同じ緊張してる。合気の気だね。
ワグナーとギョーム・デュファイはボクらが血の中に持っている感性の幾重にも重なる層の浅深に関わっている。より原初的な、まだ色が付いていない部分に浮遊する感覚。すこし浮いている足先をのばせば底に着きそうな安心感がデュファイにはあるのだけれど、トリスタン和声は最も作為的な部分に浮いていて色が混濁していて底を覗き込んで見極めるには少し怖いね。
by Mineosaurus (2012-01-28 20:40) 

glennmie

Mineosaurusさん、コメントありがとうございます。

あぁ、確かに!(笑)
ボーンというマイクの音から、ボリュームを精一杯上げて音を拾おうとしているのがわかりますけど、全員息をのんでますね^^
聴衆として参加すると、この曲けっこう緊張するんですよ。
音を立てるのが作為的なものになってしまわないか、とか・・・
レコードで聴くのがいいのかもしれませんね。

デュファイの美しさは、私にとっては自然美のようなものです。
海や空や森の美しさに感動するのと似ている・・・・
トリスタンは、仰るとおり、何から何まで人工的な美ですね。
ルードヴィッヒ王の、ケバい人工の鍾乳洞を連想してしまいます。
by glennmie (2012-01-28 23:15) 

ユーフォ

小さい頃からジッとしていなくて
落ち着きのない子でした。
大人になった今でも、ジッとして
いるのが苦手なのです。

4分33秒を緊張してステージを
見つめ続けることが難しいかも(^^ゞ
ユーフォ相方


by ユーフォ (2012-02-02 12:10) 

glennmie

相方さん、コメントありがとうございます。

そうですね(笑)
Mineosaurusさんも仰っている通り、この映像はちと退屈、失敗かも^^;

以前、野外コンサートでこの曲を聴きました。
鳥の声や風の音、空気の音、光の音、自分の鼓動・・・・いろいろな音が降ってきて、自分の周りにドームができるような不思議な感覚がありました。
音楽とは、実際に楽器が鳴り響くことだけとは限らないよね。
私たちの頭の中に、「音楽」はいろんな姿で存在する・・・それを実感する経験でしたよ^^

by glennmie (2012-02-02 13:12) 

e-g-g

仕事中にうっかりとトリスタンを聴いてしまいました、、、
さぁ、仕事にならない、どうしましょう〜
といって、4’33”ならば仕事になるかどうか。。。
by e-g-g (2012-02-09 16:12) 

glennmie

e-g-g さん・・・

おっと・・・お仕事のお邪魔をしてしまいましたか^^
失礼しました(^_^;)
このラビリンスのような響きは、これは絶対に罠ですね。
アンチ・エイジングをした魔女みたいなものかと(意味不明)


by glennmie (2012-02-10 00:05) 

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