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meu tempo [音楽雑感]




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メトロノームは、1800年頃ドイツ人のヨハン・メルツェルが実用化した画期的なガジェット。
1分間に音符を何回刻むか。
メトロノームがあれば正確な数値で演奏を管理することが出来る。はず。


ところで、メトロノームの数字の横に表示されている速度標語(AllegroとかAndanteとか)って誰が決めたんだろう?
もちろん、メルツェルさんやウィンケルさんではないですよね。
Allegroが120~168とか、Andanteが76~108とか、どうしてこのように決まっているのでしょうか。
昔から不思議だったのですが、今尚不思議です。
誰が設定したのだろう。
通常は、常識では、良識に基づいて・・・・いつの時代の誰のどんな常識からきているのかしら。
知りたい。


tempoという言葉は音楽の世界では速度のことを言いますが、もともとのイタリア語では、時間。
「time」と同義語ですよね。
私の時間とあなたの時間は同じでなければならないということか。





楽譜の左上に明記してあるメトロノーム表示。
M.M.=60とか、♪=132とか、実はちゃんと守って弾いたことがありません。
(もっとも、エチュードや教材は別ですけれど。
バルトークがミクロコスモスで「M.M.=120、20秒で」と記していることには大きな意味があると思います。)
だってね、この数値、たとえ作曲者本人による指定だとしても、それが案外当てにならないものだというのを私は知っている。
メトロノームの価値を大いに認めていたのはベートーヴェンだ、というのは周知のことですけれども、
たしか第9だったと思う。
ロンドン公演の演奏者からテンポの数値を尋ねられたベートーヴェンは、自分で設定したテンポのメモをなくしてしまっていて、新たに書き起こして手紙で送ったのだそうです。
ほどなくして失くしていたメモが見つかったのですが、その数値が全然違っていた・・・で愕然としたそうで。
ワーグナーは、自分の作品のテンポが演奏者の自由にされるのが我慢ならない。
演奏者に文句をつけると、「楽譜の指示通りです。」との答えがかえってくるのが度々あったのだそうで、じきにメトロノーム表記をやめてしまったとか。
人間は機械ではないのだから、自分の感覚を数値では決められない。
時間に関する感覚だって、朝と夜では全然違うし、湿気の多い時、暑い時、寒い時、健やかなる時、病める時・・・・全然違うし。
作曲家が自分の曲を演奏する時はとっても速いんですよ、とアナリーゼ講座の中村先生が仰っていました。
ご自身が作曲家でいらっしゃるから、その言葉には説得力があります。
自分自身の曲が頭の中で鳴る時は、他人の曲を鳴らすのとはちがって、一瞬で駆け巡るのでしょうね。
事実、ラフマニノフやラヴェルやエネスクの自作曲の演奏はどれもとっても速い。
曲の頭に表記されているメトロノーム記号は、慎重に見なければなりませんね、それが作曲者自身の指定だったとしたら尚更。




一方、通常はイタリア語で表記される速度標語。
歴史を重ねるにつれて、どんどん数を増し細かい表現になっていくところが面白い。
標語が使われ始めた初期の頃、バロック期の速度標語はとても数が少ないです。
「Allegro(速い)」と「Andante(遅い)」が主流でしょうか。
速いか遅いかがわかればいい、ということでしょうね。
それ以上は、演奏習慣に則った演奏者の解釈に委ねられていたと理解できます。
その後、作曲家の社会的地位や演奏の場の変化に伴い標語は複雑になっていきます。
Andanteよりももっと遅くしたいんだ、とAdagioが頻繁に使われるようになりますが、
例えばモーツァルトのAdagioとベートーヴェンのAdagioでは、明らかにその意味も速度も違いますよね。

そこで冒頭のメトロノームの疑問です。
BachのAndanteもベートーヴェンのAndanteも同様に76~108の中に括ってしまっていいの?
時代考証や作曲家のキャラクターを考慮したい時、この「目安」が邪魔になる。
大体、速度標語ってよく見てみると実際に「速度」を示す言葉ではないですよね。
「速度をイメージさせる言葉」なのでは?

Grave・・・重々しく
Lento・・・のろのろと
Adagio・・・ゆるやかに
Andante・・・歩くように
Allegro・・・陽気に
Vivace・・・活発に


作曲家の要求が高くなると、速度記号も細かくなります。
Allegro assai Vivace ma Serioso・・・・とか。
作曲家の切実なお願いが身に沁みて、こんな表記に出会うと「はい!了解しました!」と敬礼しています。



標語の種類が多様になってくると、選択の幅が増えてきます。
同じ「ゆっくり」でも、どの言葉を選ぶのか、そこに作曲家のキャラクターや曲の趣向が見えてきて
とても面白いです。
例えば、ショパンは「Adagio」を使わない。
彼が「ゆっくり」を表す時は、もっぱら「Lento」を使っていますね。
ここに彼の性格とか趣向とか美意識とかが見えてくるのだと思います。




meu tempo
楽譜をじっくり読み解いて、自分のテンポ、自分の時間の中でのびのび演奏を楽しみたいですね。








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musselwhite

音楽の授業を思い出しながら拝見させて頂きました。

私の住む世界では「基準」は誰が見ても結果は一つと云う事です。
見る人によって基準が変わるとそれは基準でなくなってしまいます。

でも、音楽は演奏者の気持ちが一番大事、その次に作曲家?
by musselwhite (2013-07-12 14:32) 

glennmie

musselwhiteさん、コメントありがとうございます。

確かに仰るとおりですね~。だから自分は世間からはみ出しているのかしら(笑)

ただ、クラシック音楽に関しては、それが時代も国もそれぞれに異なる過去の世界のものだということなんです。
19世紀のパリに生きたショパンと18世紀のドイツの教会で活躍したBachが同じ基準で一まとめにはできないですよね。
ただ一つ共通するのは音楽に対する「心」でしょうか。
それが一番大切ですね。
by glennmie (2013-07-12 15:24) 

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